大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和54年(ヨ)358号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

1 債権者は昭和三四年四月以来住所地に宅地(東西に長く南北に短かい長方形をなす、以下債権者土地という)及び同地上の居宅兼医院(当初木造瓦葺二階建、昭和四六年一〇月より鉄筋コンクリート造陸屋根五階建、以下坂谷医院という)を所有して産婦人科医院を開業し、現在妻及び使用人とともに右建物に居住し、常時数名の入院患者を収容している。

坂谷医院の一階は診察室、待合室、二階は入院患者用病室、三階は手術室、看護婦居室、四階は債権者の居宅五階は機械室としてそれぞれ使用されている。右建物の開口部についてみるに、一階は西側西向きに入口及び窓二個所、東側東向きに窓一個所、南側南向きに窓二個所があり、二階ないし四階は西側西向きに窓三個所東側東向き及び南向きに窓各一個所、南側南向きに窓四個所がある。

2 債務者は不動産業者であり、債権者の土地の南に隣接する土地を昭和四八年七月一六日買受けて所有し、同地上に鉄筋コンクリート七階建マンション(建物の高さ20.5メートル、屋上塔屋までの高さ27.5メートル、以下本件建物という)の建築を計画し、現在工事中である。債務者は、「右の債務者所有の土地上に建築中の建物について右土地の北側境界から5.5メートル以内の土地上には四メートルを越える高さの建物を建築してはならない。」旨の仮処分決定を求める。

【判旨】

第四当裁判所の判断

右一応認められた事実に照らし、本件申請の当否について考えてみるに、まず、本件土地及びその付近一帯は都市計画法上の商業地域であつて、日影規制のない(建築基準法五六条の二)、むしろ土地の高度利用が予定されたところであり、かつ現に付近建物も次第に高層化の傾向にあること、そして、本件土地付近は建物が南北に相接して並立し特に西側が幅員二〇メートルの電車通りに面しているため建物の採光・日照は主として西側の所要開口部に依存せざるを得ない状況にあるところ、債権者も、坂谷医院の建築に当り右のことを当然予定していたものとみられ、南側の窓からの採光・日照はたまたま隣地が駐車場として利用されていた結果にすぎないこと、そしてさらに、本件建物が建築されることによる日照被害も、冬至で、南側はたしかにほぼ大方阻害されるか、西側は午後二時以降は十分日照が確保でき、東側(南向きも含む)の窓からの日照と合わせると建物全体でみて一日で日照が完全に奪われるのは午前一一時ころより、午後二時ころまでの三時間であること、なるほど、坂谷医院の建物内部を個々的にみると部分的には日照被害のかなり大きいところもあるが、これは当初当然予定すべきであつた建物の設計構造に対する配慮の乏しさに由来するものである外、元来日照被害は当該被害者において自由になし得べき建物全体について観察すべきものと解されること、そしてなお、債権者は自らは敷地南面をほぼ一杯に利用しておいて、これら既存の状況を前提に、ただ数年早く建築したということで、隣地の建物に対してのみ自らの日照に必要な境界との空間まで要求し得るといつたことはきわめて不合理で、土地利用の公平という観点からも容易に首肯し得るところではないこと、そしてまた、債権者は病院としての特殊性を強調し、入院中の病人や新生児にとつて日照がきわめて重要である旨主張しているが、たしかにそのこと自体はそのとおりであるとしても、前記のとおり二階南側病室はそもそも南からの採光・日照を得ることを予定せず、東西からの採光・日照で足りるとの設計になつていたことなどの状況下では、もしさらに問題があるのであれば、右は債権者自身の側においてまず病室の位置・構造の改変等その是正の方法を強く考慮すべき事柄ともみられること、などの諸事情からすると、結局、本件建物により債権者が被る日照また通風ももとよりこれら被害は、前記状況下での債権者においては、なお社会通念上一般に受忍すべき限度を超えるに至つているものとも認められない。したがつて、本件仮処分申請は被保全権利の疎明がないことに帰し、疎明に代わる保証を立てさせてこれを認容するのも相当でない……。

(渡辺伸平 三浦宏一 永松健幹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!